二丁目の誘惑

先日、声優の甲斐田さんがやはり声優の大原さんを紹介してくれるということで、青山のワインバーMr.ズーガンズーに行って食事をした。声優というとアニメと漫画にアキバ系と非常にマニアックで偏ったイメージを持っていたけど、甲斐田さんと大原さんはそういったイメージをひっくり返されるような品のいい美人なので、そうか、声優って実は美人ばっかなのかな?と明らかに偏った誤解をしてしまう。 その日はしっかり終電で帰ったんだけど、時計の針が12時を振り切ると僕を妖しく誘惑するものがある。それは「もう電車なんじゃないの?」「セーブしてたから飲み足りないんじゃないの?」といった類の自分自身の声である。アルコールにだらしない人々が共通して持ちあわせている、あの声だ。そして終電まで少し余裕のある時間帯に知人と都内で飲んでいるときに、似たような「こっちこっち」的誘惑が僕を惑わせる。それは主に新宿二丁目の方角からだ。 東京を知らない、もしくは汚れを知らない人のためにフォローすると、新宿二丁目というのはゲイやオカマやニューハーフたちが生活したり働いたりしているアヤシイ夜の街だ。ふらふらっと知らないで小さい店に入ると、ビール1杯5,000円もして奥にはプロレスラーのようなオカマが構えているといった恐ろしい噂をよく耳にする妖しい街、それが新宿二丁目らしい。しょっちゅう通っているというわけじゃないが、僕が気に入っている店が二丁目のはずれにあって知人たちを何度か連れて行った。その店は若い子(ニュータイプ)とおばさん(旧タイプ)の両方がいるオカマの部屋で、11時くらいになるとダンスショーもあってなかなか楽しい。女の子のいる店によく行く知人には、残念ながらあまり評判がよくない。僕の場合、妖しいけどスケベな雰囲気はまったくなく、隣に座っているのが見た目は女でも性別は男なので変な気も起こらないし、下世話なトークもあるけどどこか平和でそれでも切ないものを背負っているという感じが性に合っているのかもしれない。はっきり言うと女の子の店よりずっと好きだ。客は何となくお金を持っていそうな年配の男性とその人が連れてきた若い女性客、男性のグループ、といった感じが多い。 最近はめっきり不景気だし、割と規則正しい生活が続いていて新宿二丁目からは遠ざかっている。光があって影がある。影がなければ光は光ではないのかもしれない。二丁目はどこかしら欠落していて、それを許してもいいという人間的な安堵感がある。

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